こんにちは、橘です。
突然ですがみなさん、
他人の目に自分がどう映るか、気にしたことはありますか。
自分の見た目。才能や学力。
家庭環境。
彼氏や夫のスペック。
人から「うらやましい」「さすがだね」と言ってもらえるかどうか、
意識して振る舞ったりしていませんか。
ちょっとでも心当たりのある方におすすめするのが『盲目的な恋と友情』。
いや、辻村深月さんの小説ならどれもおすすめなのですが、
出たばかりの新刊が圧倒的な迫力と熱量で、
一気に読み終わったあげく心臓がいまだばくばくしているので、
今回はこちらをご紹介します。
ちょっと今回はトーンがマジメだよ!
美しく頭もよく、家庭環境にも恵まれた女子大生・蘭花の彼氏は、
オーケストラ部の指揮者で誰もが憧れる男・茂美。
物語はその茂美がすでに死んでしまい、
蘭花が別の男と結婚する、というところから始まり、
最初から謎めいており、不穏な空気。
蘭花にとっては、それははじめて知った本物の恋。
この人に選ばれている、人に羨まれる恋をしているという自負、
上等な男を手に入れたという事実が彼女のプライドを満たし、
「好き」と同じくらい得た「立ち位置」が
彼女をどんどん虜にしていきます。
はじめての恋、というのは強いですよね。
それが甘美な喜びを与えてくれるものならなおさら、
依存と執着がわいて出る。
どんなに聡明な蘭花でもそれは同じで、
無様な姿を見せるような事態にはなるまいと思っていたはずなのに、
その恋がほころびをみせはじめてからも、
プライドと自意識を手放せずに転げ落ちていく。
〈恋愛というのは、彼女がしている、あんな、“ありきたりなこと”ではなく、
私と茂美のような、“特別でかけがえのないこと”だ〉
〈このきれいな男の、将来有望な指揮者である彼の妻の座は私のものだ。〉
どうしてみんな、そんな凡庸で特別でもない彼氏で我慢できるの。
心のどこかでわかっていても、そんなふうに思わずにおれない蘭花。
でもそんな彼女を、読んでるこちらも責めることはできません。
愚かだ、とは思うけれど、そのちょっとした優越は誰もが抱くものだし、
自分をよく見せたい、誇りたいと思うのはあたりまえの感情だから。
ほんのちょっとのズレや、しがみつきすぎたもののせいで、
あっというまに負に転ずるのが現実のおそろしさで、
誰もが陥りがちな「穴」なのでしょう。
そして、そんな蘭花の恋愛事情に少しずつからんでくるのが「友達」の留利絵。
彼女は彼女で、自分が美しくないことへのコンプレックスや、
だからこその自分の能力に対する自負が強い。
蘭花と友達であることに、
「こんな素敵な友達がいるのよ」という優越感を抱き
自分の居場所をつかみとろうとする。
そんな二人が行きつく先は?
息を呑むラストは、辻村さんがミステリー作家であることを
じゅうぶんに思い出させてくれます。
マウンティング女子の話を以前しましたけどね、
女同士で厄介なもののひとつが、
「その関係がときに恋愛に似る」ことだと思うのです。
友達と自分の境界線が、時によっては曖昧になる。
だからこそ見せつけるために優越感を抱くし、
自分の側にひきもどすために意図せず上から目線になりもする。
自意識はどこでもいつでも発動するのです。
そんな微妙で絶妙な距離感と感情を描いたら
辻村深月の右に出るものはいないんじゃないかと個人的には思っとります。
デビュー作から追い続けている作家さん。
変わらない、けれど進化し続ける彼女の最新作は
やっぱり怒涛の面白さだったのでした。
『盲目的な恋と友情』辻村深月