福山雅治さんが結婚しましたねー。
Twitterでまわってきた
「福山雅治と堀北真希の結婚にショック受けた男女で婚活パーティしよう」
みたいなつぶやきに一番笑ったのですが、
福山雅治の結婚にショックウケてる独身貴族男子と、
堀北真希の結婚にショック受けてるオヤジ女子の婚活パーティは、
そもそも結婚する気がなさそうだし、みんなこじれてるだろうし、
飲み仲間ができるだけで恋にならなさそうだなって思いました。
というわけで今回ご紹介する小説は婚活がテーマです。
正確にいうなら、実際に起きた婚活詐欺殺人をモチーフにした
花房観音さんの『黄泉醜女(よもつしこめ)』です。
婚活サイトで出会った複数の男から金をせしめ、
その男たちが次々と不審死を遂げたことで容疑者となった女・さくら。
100キロ以上ありそうな体躯に、化粧けがなく愛嬌のない顔。
およそ世間が抱く「悪女」のイメージとはかけ離れた女。
この描写で、誰もが実在の事件を連想するでしょう。
実際、花房さんがあの事件の被告のブログを読んで書いた感想が、
編集者からのオファーを受けるきっかけだったそうで、
「女流官能小説家が知り合いの編集者に持ちかけられて
さくらの本を書くことになる」というこの小説の筋立てともリンクします。
最初の語り手である小説家・桜川詩子も、
ひょっとしたら花房さん自身なんじゃないの?と思わせる導入も見事で、
読んでいくうちに私たちが「これはどこまでフィクションなのだろう」という
疑心暗鬼の穴に嵌ってしまいます。
そしてそう思わせるのは外枠の設定だけではなく、
登場するさくらに関わる女性たちの心理描写が圧倒的にリアルだから。
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あの女は私より醜いくせに、醜いままで愛されて富を手に入れた。
だったら、私はなんだったの?
美しくなろうとした私は、なんだったの? (P148)
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あの婚活詐欺事件が注目をあび、
一部の女性たちが夢中になって傍聴に通った理由は、
ここにあるのではないでしょうか。
「あんな女に騙されるなんてほんと馬鹿ね」
そう蔑むのは簡単です。
「俺だったら絶対、ひっかからないわ。意味わかんねー」
事件直後、話をした男性はみんなそう言いました。
だけどほんとに?
ほんとに、あれは、
「モテない女とモテない男が狭い世界で痴情のもつれを起こしただけ」なのでしょうか。
でもだったらどうして、彼女は、いまなお獄中結婚なんてすご技を成し遂げたのでしょう。
あの事件によって、彼女は、
世間が標榜する「モテるために」「愛されるために」を真っ向から否定した。
努力することで保たれていた世の女性の矜持をあっさり打ち崩した。
そんな気がするのです。
あの事件にはなんだか、女の「業」みたいなものが詰まっている気がして、
どうしてこんなにあの事件のことが気になるのか知りたくて、
わたしもずいぶん、いろんな本を読みました。
その答えのひとつが、この小説にあった気がして、
読み終わったあとのわたしは「そうなんだよ……」とただただうなだれるばかり。
女は幼い頃から無邪気に残酷に選別されます。
美人かそうでないか、太っているか痩せているか、
結婚しているのかいないのか、子供がいるのかいないのか、
あらゆる場面でジャッジされ続ける。
結婚、というのはその中でひとつのわかりやすい指標です。
自分は誰からも選ばれないような女ではない。
少なくとも1人は「自分でなきゃだめだ」と言ってくれる男がいて、
女としての魅力があることは証明されている。
そう他人にわかりやすく示すことができるもの。
自分と他人を嫉妬と優越感ではかる境界線。
仕事では満たしてくれない自尊心。
渦巻く女たちの「業」が、本作にはつまっていました。
決して他人ごとではないその業を、読んで一緒に背負ってみてはいかがでしょう。
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