わたしは、30歳といったらばりっと決めたスーツ姿で
きびきび働く自律したかっこいい女性になっているはずでしたが、
あいかわらず朝は弱いわ、締め切り破るわ、忘れ物もうっかりも多いわ、
まさか結婚もしないで、平日の昼間から家でひとり、
こんな感情まるだしのコラムを書いているとは思いもよりませんでした。
あのころ憧れていたはずの“大人”に、
年齢だけでいえばとっくに追い越していたと知ったときの衝撃ときたら。
内面的にも、せめて3割くらいは追いついているかなあ、
と想いを馳せながら読み返した小説が『精霊の守り人』から連なる守り人シリーズ。
そう、綾瀬はるかさん主演で3年がかりの大河ドラマ化が決定した、
日本を代表するファンタジー小説です。
出展:NHKオンライン特設ページのトップ画面より
ファンタジー畑で育った人でなければきっと、
『精霊の守り人』というタイトル自体、ドラマ化ではじめて知ったか、
せいぜい書店で並んでいるのを見たことがあるかも程度でしょう。
著者の上橋菜穂子さんは、児童文学界のノーベル賞ともいわれる
国際アンデルセン賞の作家賞を2014年に受賞した方です。
わたしが『精霊の守り人』に出会ったのは、まさしく中学生のとき。
もともとファンタジーや児童小説が大好きだったわたしは、
偶然見つけたその本に、はじめて読んだときから虜になりました。
今のようにネットの発達していなかった時代。
新刊がいつ発売されるかもわからず、本屋に通い詰め、待ち続け、
むさぼるように読み続けたものです。
なぜならこの守り人シリーズには、
それまで読んだどの本でも味わったことのない衝撃がつまっていたから。
ふつうの児童文学とひとあじちがうのは、まず、
主人公のバルサが30歳であること。
児童小説ですよ?
大判の本に、文庫小説の三倍くらいの大きさの文字が並ぶ、挿絵つきの本ですよ?
それなのにバルサは、女だてらに腕の立つ短槍使いの用心棒。
橋から落ちかけた皇国の第二皇子を助けるところから物語ははじまりますが、
決して多くを語らない彼女が、深い悲しみと傷を抱え、
孤独に、自分を厳しく律しながら生きていることは行間からありありと伝わってきました。
この助けられた皇子・チャグムもまた、
もう一人の主人公として、国を統べる者としての成長を遂げていくのですが、
彼もまた、生まれながらに人ならざるものを身体に宿し、
実の父から命を狙われるという悲劇を背負った少年。
心根は純真でまっすぐながら、早くから大人にならざるを得なかった彼の背負う、
苦悩と覚悟もまた、幼心に深く胸を打ったのでした。
シリーズを通して、物語は国内の権力争いにとどまらず、
隣接する国々との関係にも広く及んでいきます。
政略的な駆け引き、利権にからむ欲望がうずまく物語展開は、
読み手の“こうであればいいのに”という願いをいい意味で裏切ります。
ファンタジーという言葉だけを聞けば、
優しいおとぎ話のような気がしてしまいますが、
このシリーズに描かれているのは徹底した現実。
どんなに理不尽でも生きていかねばならない覚悟や、
どんなに苦しくてもくださなくてはならない選択と責任が描かれています。
でも、だからこそ。
自分の人生に肚をくくったバルサとチャグムが支え合う、
師弟のような、姉弟のような関係に、奥底から心を揺さぶられてしまう。
理不尽で、苦しくて、残酷だから、
そこに生きる人々の本当の優しさと強さを知ることができるのです。
いつのまにかバルサを追い越してしまっていたわたし。
あの頃、彼女のように強く美しく生きていきたいと願った想いは、
多少なりとも遂げられているだろうか。
そんなことを思いながら、改めてシリーズを読み返してみるのでした。
いやあ、大人になってから読み返すと、描かれているものの深さに改めて衝撃をうけますね。
綾瀬さん演じるバルサがどんな生き様を見せてくれるのか、
3年がかりの大作ドラマがその世界観をどう表現するのか、
いまから楽しみでならないのでありました。
『精霊の守り人』
上橋菜穂子 新潮文庫
※以下、全10巻+外伝2巻のシリーズものです。
児童書形態の偕成社版と、新潮社版の両方があります。
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